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祭りのあと

「ブンセイジュウイチネン、ですか?」と、なにか不思議なものを発見したかのような口調で背後から訊ねてきたのは上品そうなご婦人だった。
 還暦は過ぎているだろうか。訛りがなく、着ているもののセンスやきれいに施された化粧からは、地元に住んでいる人間ではないだろうとの察しがついた。この町の秋祭りを楽しむために、どこか遠くからやってきたのだろう。
「町指定文化財 猿田彦命(天狗)立像 文政十一年 永井久右衛門作」と赤い衣を纏った大きな天狗様には書かれている。その所以を僕に尋ねてきたのだった。
 文政十一年というのが西暦でいうといつごろだったのかあいまいだったから、そこには触れずに僕の知る限りのことを話す。
「むかし、ナガイキュウエモンさんっていう天才的な彫刻師がいたんです」
「あ、ヒサエモンじゃなくてキュウエモンて読むのね」
「そう、キュウエモンです」
「この町に?」
「そうです。キミナリタという集落に住んでいた人です。君成田ってわかりますか?」
 いいえ、とこたえた彼女はやはりこの町の人間ではなかったらしい。人慣れした物腰は、やはりどこか都会的だ。
「すごい才能を持った彫刻師で、藩にも仕えた人です。あ、藩っていうのは八戸藩のことで、ここは当時八戸藩だったんです。サルタヒコノミコトがお祭りを先導するっていうのは全国共通でしょうが、こんな大きい木像が先導するっていうのはたぶんここだけだと思いますよ」言っている僕自信の鼻が天狗のように高くなった。
 古式ゆかしい雰囲気を醸し出す、このお祭りの行列を先導する大きな天狗様を、おそらくはじめて見たのだろう。その謂れに「あらぁ」と感激した様子だった。県の文化財には指定されていないと言うと、「なぜかしら」と口を少し尖らせた。僕らが思う以上にこの像の価値は高いのかもしれない。
 立像を“リツゾウ”と読んだ彼女に、それはリュウゾウと読むのだとも教えてあげた。
 咄嗟に口から出た僕の説明は、おおよそ間違いではなかったと思う。帰郷してから詰め込んだ知識も意外なところで役に立つものだ。
 ボンボンボン、と狼煙が上がり、合図とともに天狗様が動き出す。軽妙な笛や太鼓のお囃子が聞こえはじめ、馬が、人が歩きだし、神楽が舞い、大きな山車が動き出す。
 すべての観衆のまなざしは、天狗様に、そして続く行列に向かって微笑んでいた。

「祭りのあと」とはよく言ったもの。
 賑やかな時間が過ぎ去ったいま、強烈な寂しさに襲われている。なんかすげぇソーシツ感。

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コメント

RE:kitaguniさん
そうですよね。秋だから喪失感が大きいのですよね。
僕も私的祭りはこれからです♪
僕の本名? 五郎は五郎でしかないのです(笑)

  • 五郎
  • 2014/09/28 00:20

RE:hikaruさん
お祭りというのは郷愁を感じるもの。
この町の祭りは小さいけれど人が熱い!

  • 五郎
  • 2014/09/28 00:18

あらぁ〜〜私似の女性だったのですね〜〜♪( ´ー`)フッ
近隣のお祭りは秋祭りですからね・・・余計に喪失感がありますよ。
八戸の祭りも元は八月の末だったんですよ。
私的祭りはこれからかな・・・撮影ツアーも終了しちょいと中休みです。
って・・五郎さんの本名って・・・???

  • kitaguni
  • 2014/09/21 19:10

子供じゃなくなっても、お祭りのときのワクワクは忘れないものでこの時期になると何となくそわそわしている自分がいます。もう3年くらいお祭りには行けてないのが残念です(._.)

  • hikaru
  • 2014/09/20 23:01